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2007年03月08日

「僕らはみんな生きている」 山本直樹

 

 記念すべき200回目の投稿のようなので、自分の好きなことについて書いてみよう。
 オススメの漫画を教えてくださいと言われたら、まっさきに「僕らはみんな生きている」 ( 画:山本直樹+作:一色伸幸)をあげる。
 これは、本当に素晴らしい漫画なので、どなたにも読んで欲しい。

 しかし難点としては、これがエロ漫画コーナーにある可能性がある事だ。山本直樹氏は、知る人ぞ知る大御所の漫画家先生なわけだが、主に知られているのは、エロ系の漫画である。この人の女性のセクシーな描き方は、他の追随を許さないほどである。そして理不尽さ、突き放したような前衛感、実験漫画的な世界は、なかなか玄人向きだと思われる。
 変な感傷とかを、極力排して、ホンネのサラッとした世界観がとても良い。
 
 さて、この「僕らはみんな生きている」は、エロが主体ではないストーリー漫画である。ストーリーは、建設会社に勤めるエリート29歳の男が、東南アジアの国に出張でやってきて、駐在している日本人たちや、現地人のセーナという美しい女性との人間ドラマである。内戦にも巻き込まれて、日本に帰って来れなくなってしまう。
 
 まずODAの仕組みがぶっちゃけられている。まず日本から開発援助(ODA)の金が入る。→ブローカーが現地で開発のネタをぶち上げる。→日本の政府の金が流れ、現地の政府の要人がワイロを受け取る。→そして日本の企業がその開発案件を受注して、現地の人にはあまり必要で無い建築物などを作り、日本に金を持ち帰る。

 日本人の悲哀というものが、描かれる。商社の仕事もそうなのであろうが、世界中を駆けずり回り、じゃぱにーず円や技術力を武器に、商売をする日本人たち。会社のために命をかけて、歯車として、日本株式会社を動かしているのだ。
 そして、実際には存在しない発展途上国、タルキスタンを舞台にしているのだが、典型的でステレオタイプな、「発展途上国」のイメージが描かれる。洪水があり、カエルが食べられていて、内戦が絶えず、ワイロが横行し、日本大使館には人がウジャウジャいて、トゥクトゥクに乗って、土煙の舞う街があるのだ。少し典型的過ぎるイメージではあるのだが・・。
 俺は大学時代にバックパッカーをして、東南アジアを放浪したが、確かにそのようなイメージは現実にあった。タイとカンボジアの国境など、余りの未開さに眩暈がしたほどである。そして、そのようなカルチャーショックを受ける世界に、放り込まれ、戸惑いながらも、次第に主人公は順応してゆく。

 そして主人公と、セーナとの恋愛がすごく美しくて泣ける。
 セーナは、セクシーで美しく、強くてサバサバした女性として描かれる。
 主人公も、セーナも、最初は打算づくしであった。主人公もセーナも、実際に何を考えているのか、何が目的なのか、よく分からない。互いが互いを利用しあうドライな関係を装いながら、時折見せる寂しさだとか、現地語で何を言っているのか分からない何かの言葉とか、なんとなくリアルで切ないのだ。
 そして言葉が美しい。(二人は英語で話しているので、日本語が不自然なのだ。)

 「ここは風景、人々、植物、空気、見るものがすべて日本と違います。この夕暮れに、私は何か夢の中にいるように感じます」
 「ここから見るとね、タカハシ、日本が夢の世界なんだよ。立ち並ぶ高層ビル、高速道路、戦争も飢えの心配の無い生活、そのすべてがこの世界にとって夢の世界なんだよ。」
 「・・・それではあなたと私は、お互いの夢の中の登場人物ですね。」
 「そうだね」

 もし外国の人と恋愛したことのある人だったら、こういう気持ちは分かるだろう。
 日本に帰れるチャンスがあり、熱病に冒されたセーナを置いて帰ろうとしていた主人公。しかしドラマチックな演出も一切排して、一言「戻ります」といってセーナの所に戻る主人公であった。こういうところも山本直樹ブシである。

 次の日、目覚めた主人公は、起きて料理をするセーナを見てこう思う。
 「このにおいだ・・・。このハーブとトウガラシのにおいに僕はきっと脳をやられてしまったのだ。」

 まああまり、内容を書くと、ネタバレしてしまうのでこのへんにしておこう。
 本当に共感できる作品である。アジアの空気、そして日本人としての技術者魂とか、ODAの偽善とか、カルチャーショックとか、サラリーマンの気持ちとか、第三世界の戦争のイメージ、そしてそれらを穿った見方をする主人公たち、そしてロマンチックさと、セクシーさが、作品全体を包んでいる、正に大人のための傑作漫画と言えよう。  

Posted by らっっっきー at 15:00Comments(0)